Vol.1 乳化とおいしさ
執筆:羽木 貴志(おいしさ科学館館長)
ミルクコーヒーやカスタードクリームなど、乳化食品の油脂の分散状態は、その乳化粒子の大きさの分布を計測することが一般的です。油脂の乳化粒子径を小さくすれば、乳化安定が増す傾向になるといわれています。
一方、コクなど油感は、粒子径だけはなくその分布も重要であり、プロのシェフが作るドレッシングなどの乳化食品において、そのおいしさは、乳化粒子の分布の広さにあるともいわれています。
随分以前になりますが、乳蛋白と卵蛋白を加熱変性・微粒子化した脂肪代替物が話題になりました。その際の研究論文:Journal of American College of Nutrition, Vol.9, No.4, 388-397(1990)に示された結論が、Creamyと感じる粒子径領域は0.1~3µとなっています。
市販ミルク缶コーヒーの粒子径は、この論文のCreamyと感じる下限ギリギリの域の粒子径にあるのは、おいしさと乳化安定の両立できる大きさの領域と考えると、興味深い事実としてとらえることできます。
おいしさ科学館ではIRイメージングを用いて、油脂の分散性とおいしさの関係を調べています。IRイメージングによって、従来の乳化粒子の大きさの分布計測とは異なり、油脂の分布の粗密度合いを計測することが可能となりました。下図は、IRイメージングによる食感の異なるカスタードクリームの脂肪の分布比較で、濃厚と感じられるもののほうが、脂肪が不均一な分布になっています。
乳化食品において、乳化をコントールすることは、単に安定化だけではなく、油脂の分散性の如何でおいしさにまで影響します。