Vol.13 地域による嗜好の違いを見える化
~あなたの好みのソースはとろっと?さらっと?~
執筆:山口 裕章(おいしさ科学館館長)
「できるだけ多くの人においしく食べていただきたい」・・・これは食品を提供する方々に共通する思いです。一方で、おいしさは人によってそれぞれ異なります。食品会社の立場からすれば、人それぞれの嗜好に合わせた商品開発はとてもできるものではありません。
しかし、あるターゲットに絞り込めば、そこには共通する嗜好性があるはずです。ご存知の通り、関東は「つゆ」、関西は「だし」の文化であるように、地域別、年代別、性別などでターゲットを絞り込んだ商品開発なら可能ではないでしょうか。嗜好調査データは、そのような商品開発において大いに役立つものになります。更に、機器分析のデータと嗜好調査データを重ね合わせることで(おいしさ科学館コラムvol.11)、より具体的に商品開発の方向性を示唆できるものと考えます。
ただし、嗜好調査は時間と費用がかかり簡単に実施できるものではありません。更に、時代とともに人の嗜好も変わってきます。そこで、できるだけ費用をかけずに短期間でターゲットごとの嗜好を見る方法があれば、商品開発において極めて有効な手段となります。例えば、現在販売されている商品を機器で分析し、そこから見えてくる商品の特性から逆に現時点での嗜好を推測してみるのも、一つの手段となるのではないでしょうか。
あなたの好みのソースはとろっと?さらっと?
関東のソースはとろっとしていて、関西はさらっとしているというようなイメージをお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。
皆様がお持ちのそのような感覚を機器分析によって、明確に示すことができます。
市販のソースについて、機器分析により地域による粘性の違いを見てみました。今回分析に使用したソースの主な販売地域は関東、中部、関西の3つの地域で、それぞれの地域で販売されているウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースを対象としました。これらのソースのせん断速度10s-1における粘度(仮説:口当たりで感じる粘度)、せん断速度50s-1における粘度(仮説:のどを通過する時に感じる粘度)をマッピングしたのが以下の図です。
ウスターソースについて、粘性の高い順に「関東」「中部」「関西」となっていることがわかります。ただし、関東はかなり幅広い粘性を持っており、この関東の傾向は、中濃ソースや濃厚ソースにも見られる特徴です。中濃ソースになると関東よりも関西の方が粘性が高くなっています。粘性が低くさらっとしたイメージのある関西のソースですが、中濃ソースになると逆転し、特にせん断速度10s-1における粘度(仮説:口当たりで感じる粘度)が極端に高くなっています。一方、濃厚ソースにおいて関西品と他地域を比較すると、せん断速度10s-1の粘度に比し50s-1における粘度(仮説:のど越しで感じる粘度)に重きをおいていることがわかります。
全てのソースを一つのマップにまとめたのが以下の図です。これを見ると、中部で販売されているソースは、ウスターソース~濃厚ソースまで比較的小さなエリアにまとまっています。
以上のように、機器分析においてそれぞれの地域で販売されているソースの特徴を掴むことができました。おそらく地域ごとの嗜好にあわせた商品が販売されているものと推測されます。
あなたのお好みのソースは、どのタイプのものでしょうか?
このように嗜好性があると思われる商品について機器分析をしてみるのはいかがでしょうか。実際に販売されている商品を分析することで、ターゲットごとの嗜好性をより明確に見ることができるかもしれません。