Vol.14 人の感覚の可視化 ~食品から化粧品へ~
執筆:山口 裕章(おいしさ科学館館長)
おいしさ科学館では、2004年4月に発足して以来、食品を食べた時の人の感覚「おいしさ」を機器分析と統計解析を用いてわかりやすく可視化することに挑戦してまいりました。そこで、過去のおいしさ科学館コラムでは食品を対象とした分析・解析事例を紹介してきたわけですが、最近は化粧品についてもその使用感の可視化に取り組んでおります。
食品から化粧品へ
近年、セルフ化粧品の台頭に伴い、その商品の特徴を示すPOP(例:濃厚なうるおい感がありながら、軽いタッチでなめらかにのび広がります)付きで販売されているシーンを、多くの化粧品売り場で見かけるようになってきました。また、その特徴をわかりやすくするために官能評価による使用感をマッピングしたものも見かけることがあります。これら化粧品の「使用感」は、食品でいえば「おいしさ」となり、いずれも人の「心地よさ」に共通する感覚です。このような感覚の可視化は、あらゆる商品カテゴリーにおいて需要があるものと考えています。
おいしさ科学館では、人の感覚「心地よさ」の可視化に挑戦するという大きな課題のもと、2年前より化粧品の使用感について検討を開始し、今回、口紅の使用感について新規分析・解析手法を構築しました。以下に紹介いたします。
口紅の物性測定・使用感のマップ
従来、口紅の使用感を分析する手法としては、動的粘弾性測定装置を用いて、押し潰した口紅の固さを測定し評価する手法があります(写真1)。今回、おいしさ科学館では、人の動作に着目し、実際に塗るシーンを再現することで、より人の官能評価と相関が高い分析・解析手法を構築することに成功しました。即ち、動的粘弾性測定装置を用いて、スティック状の口紅を人工皮膚に押し付けて回転させるときに生じるトルクを測定する手法です(写真2)。
従来法(口紅を潰して測定)
新規測定法(塗るシーンを再現)
以下のグラフ(薄いグレーの波形)は、この新規測定法によって得られた分析例ですが、そこに指数関数と三角関数を組み合わせてフィッティングしました(赤色の波形)。
上記フィッティング曲線から得られたいくつかの物理パラメーターと、官能評価で得られたいくつかの人の感覚(使用感)との相関が高いことがわかりました。その一部のパラメーターをとってマッピングしたのが以下の図です。このように実際に人が口紅を使用したときの感覚を、機器分析で可視化することができます。(特許出願済み)
なお、口紅だけではなくその他カテゴリーの化粧品についても、その使用感について客観的な分析手法を導入すべく検討していく予定です。この先、様々な分野において消費者自身の責任で商品を購入する機会がますます増えてくると思います。それに伴って、客観的な人の感覚の可視化(商品選択の指針)が、より求められるようになるのではないでしょうか。
(2015年3月)