Vol.19「パラパラ感」って分析できる? ~チャーハンの例~
執筆:山口 裕章(おいしさ科学館館長)
多くの方が美味しいと支持するであろう『パラパラ』のチャーハン、お店の味を再現しようとご自宅で研究を重ねた方もいらっしゃるのではないでしょうか?もちろん『パラパラ』であればおいしい訳ではなく、ご飯粒が「ふっくら」しておりさらにその内部が「しっとり」していることもチャーハンの美味しさを支える大切な要素のようです。人によって好みは変わりますが、『パラパラかどうか』に絞れば、普通の白いご飯のように米粒同士がくっつき合ったチャーハンよりも口の中で程よくほぐれるパラパラ感のあるチャーハンが好まれるのは明らかでしょう。
おいしく作るのが難しいチャーハン、その美味しさの表現も幅広く奥が深いことと思います。今回のコラムでは、チャーハンのおいしさを左右する「パラパラ感」に絞込み、その指標となる分析方法について紹介します。
機器分析でパラパラ感を見る
例えばチャーハンを食べようとレンゲでかき混ぜたとき、パラパラのチャーハンは「すっ」と抵抗なくレンゲが進むと思います。逆にご飯粒がまとまるようなしっとりタイプのチャーハンは大きな抵抗を感じるでしょう。このことから、チャーハンはパラパラしているほどご飯粒同士の付着性が小さいと考えられます。ご飯粒同士がくっつきあっていると、その塊が障害物となってレンゲが進みづらいと推測できます。この現象が『パラパラ』を分析するヒントとならないか・・・?そこで、チャーハンをかき混ぜるシーンを機器分析で再現することを試みました。
具体的には、動的粘弾性測定装置に先端が球状の冶具(以下、ボールと称す)を取り付け、チャーハン内で回転させたときにかかるトルクを測定する方法です(図1)。
図2は、図1の方法で測定をした際に、ボールの移動に合わせてご飯粒がどのように動くのかを示したモデル図です。図3では、図2のモデルから予想されるトルク変化を示しております。
①ご飯粒がくっつくチャーハン
ご飯粒同士の付着性が高いためご飯粒がボールをよけにくく、ボール進行方向にご飯が圧縮され大きなトルクがかかります。また、ボールが通った後は空洞ができやすく、2週目から急激にトルクが低下します。但し、空洞壁面の付着性は残ります。
②パラパラのチャーハン
付着性が低いため、ボールの進行に合わせてご飯粒がボールをよけることができ、冶具にかかるトルクはかなり小さくなります。ボール通過後は元にもどりやすく、2週目からの急激なトルク低下は①ほど顕著ではありません。
パラパラ感が異なる2種類のチャーハンを調製し、パラパラ感の可視化を検証!
それでは、モデルから予想される通りになるのか、実際の分析をご紹介致します。
分析に供するサンプルとして、パラパラ感が異なる2種類のチャーハンを用意する必要があります。そこで、表1の簡単な処方で冷凍チャーハンをフライパンで炒め、2種類のチャーハンを調製しました。尚、サンソフトNo.230ADは太陽化学㈱製の乳化剤です。フライパンで油を温める際に、乳化剤を一緒に投入し、十分温まって乳化剤が溶けてからチャーハンを炒めます。これらを16名のパネル、2点識別法にて喫食事のパラパラ感の強弱を確認したところ、15名がサンプル②ほうがパラパラしていると評価しており、二項検定により有意に識別できている結果となりました(有意水準 0.01)。
パラパラ感の異なるサンプル①(無添加区)、②(サンソフトNo.230AD添加区)について、上述の測定法を用いて分析しところ、モデル図のとおりの結果が得られました(図4)。更に図4から1周目トルク平均値を抽出したものが図5です。このように、パラパラ感の可視化が上手くできていると考えられます。
パラパラ感の可視化は、出来立てチャーハン・冷凍チャーハンでも!
市販冷凍チャーハンを使わずに、実際にご飯からチャーハンを作った際の効果を確認しました。炒め油(サンソフトNo.230AD添加有無)でチャーハンを作り、それぞれ出来立て時および数日間冷凍保存したものを分析しました。サンソフトNo.230AD添加区の方がパラパラ感が向上しているということが、出来立て品および冷凍保存品のどちらでも確認できました。また、冷凍保存品のほうがより顕著にパラパラ感を向上させていることも確認できました(図6,7)。
あなたのお好みはパラパラ?
おいしさは人によってまた時代とともに変わりますが、インターネット上に溢れる「おいしいチャーハンの作り方」情報や中華料理店の口コミなどからもわかるように、今のところ「パラパラ派」が主流のようです。おそらく読者の皆様の中でも「パラパラチャーハン」がお好きな方が多いことと思います。
そうであれば「パラッとしている」「パラパラ感アップ」という文言は、チャーハンにおいて重要な謳い文句になると考えます。その際、言葉だけで伝えるのではなく、機器分析による客観的なデータを示してみてはいかがでしょうか。
(2018年2月)