Vol.21 男性も女子力UP?~伸張する男性用化粧品の使用感を分析~
近年、ドラッグストアやスーパーで男性用化粧品コーナーを見かけることが多くなりました。実際に男性用化粧品市場は年々増加しており、今後も拡大していく見通しのようです。
(富士経済 https://www.fuji-keizai.co.jp/market/18052.html)
この要因の一つとして、女性の社会進出が挙げられます。職場の女性比率が増加すれば女性の目が気になります。女性に嫌われずに気持ちよく働くためにも、体臭や肌、髪型に気を遣うようになってきたといえるでしょう。更に取引先との商談シーンであれば、より「見た目」に気遣います。相手先にストレスを与えるような外見では商談も上手くいきません。清潔感あふれる「キリッ」とした外見が好まれるようです。また、SNSなどインターネット上で、男性用化粧品に関する情報収集や商品の購入も簡単にできるようになってきています。最近では男性用ファッション雑誌に美容特集が組まれるようになってきました。このように益々伸張することが期待される男性用化粧品ですが、女性用化粧品と比べていったい何が異なるのでしょうか。
男性用?女性用?その使用感の違いは?
今回は、泡洗顔料に注目しました。市販商品の表示を見ると、泡の弾力やきめ細かさなど「泡」の感触や性質に関する表現や、「しっとり」「さっぱり」といった使用感に関する記載があります。その中で、女性用洗顔料には「うるおい」「しっとり」という肌に対するやさしさや刺激がないことをアピールする記載が多く、男性用洗顔料には「さっぱり」「すっきり」といった爽快感をアピールする記載が比較的多く見られます。そこで、男性用と女性用泡洗顔料の使用感の違いについて、動的粘弾性測定装置(写真1)および静動摩擦測定機(写真2)で分析し、各商品の使用感をポジショニングできないか検討しました。分析に供したサンプルは市販の泡洗顔料(ポンプフォーマータイプ)で、男性用6品(A~E社製、E社製は2品)女性用4品(A~D社製)の計10品目です。
上記装置で分析をした結果、①「泡の弾力・粘り」、②「すすぎ時のさっぱり感・泡切れの良さ」の官能評価結果と強い正の相関を確認できました。
①については、動的粘弾性測定装置のダブルコーン型冶具を用いて泡をセットし、定常流測定を実施。せん断速度100s-1における粘度を測定しました。その結果、当該分析における初期log粘度が「泡の弾力」「泡の粘り」と強い正の相関を示しました。
②については、泡洗顔料ですすぎ時の肌(前腕内側部)を再現し、静動摩擦測定機の触覚接触子を用いて摩擦力を測定しました。触覚接触子を肌上で滑らせた際に、肌がさっぱりしているほど摩擦力の変動が大きく、しっとりしていると変動が小さくなります。
図1は、これら2つのパラメーターを用いて各商品をポジショニングしたものです。●は男性用、○は女性用の泡洗顔料です。グラフを俯瞰的に見ると、「泡の弾力・粘り」が強いものは「しっとり・ぬるぬる」感が強く、 「泡の弾力・粘り」が弱いものは「さっぱり・泡切れが良い」という感覚が強くなることがわかります。どうやら「さっぱり感」と「泡の弾力」はトレードオフの関係にあるようです。この傾向は、A~C社それぞれの男性用と女性用の違いにあてはまるものでした。男性用と女性用では、その使用感において明確に異なることが機器分析においても示すことができたのです。尚、D社製の男性用については「しっとり」を謳い文句としています。他の男性用泡洗顔料とは異なる使用感を上手く捉えることができました。
「泡の弾力」「さっぱり感」どちらも欲しい?
「泡の弾力」と「さっぱり感」はトレードオフの関係にありそうですが、これらを両立させた泡洗顔料にご興味はありませんか?需要があるのかはともかく、どちらも兼ね備えさせることができれば、今までにない感触の泡洗顔料になるかもしれません。
実は、界面活性剤を組み合わせることでこれらを両立できる可能性があるのです。
表1は、その可能性を検討した処方です。ベース処方およびベース処方の一部をサンソフトNo.760-C(カプリン酸グリセリル)、サンソフトM-12JW(ラウリン酸ポリグリセリルー10)で置き換えた計4つの処方を用いて前記同様の分析を行いました。この2品目はいずれも太陽化学㈱製の界面活性剤です。
表1 泡洗顔料処方
成分 | ベース処方 | No.760-C | M-12JW | No.760-C +M-12JW |
---|---|---|---|---|
水 | Up to 100.0 | ← | ← | ← |
PG | 5.0 | 5.0 | 5.0 | 5.0 |
ココイルメチルタウリンNa (アミノ酸系界面活性剤) |
5.2 | 4.5 | 3.6 | 3.0 |
ラウロアンホ酢酸Na (両性界面活性剤) |
4.8 | 4.2 | 3.4 | 2.8 |
サンソフトM-12JW (ラウリン酸ポリグリセリル-10) |
- | - | 5.8 | 5.8 |
サンソフトNo.760-C (カプリン酸グリセリル) |
- | 1.3 | - | 1.3 |
防腐剤 | 適量 | ← | ← | ← |
安定化剤 | 適量 | ← | ← | ← |
香料 | 適量 | ← | ← | ← |
(wt%)
図2に示すように、2種類の界面活性剤を組み合わせることで「泡の弾力」と「さっぱり感」を両立できる可能性が見えてきました。尚、この効果はアミノ酸系界面活性剤処方(ベース処方)に対する効果です。今後、石鹸系処方においても同様の検討をしていく予定です。
男性も化粧をする時代
男性用化粧品の伸張は世界的に起きているようです。
世界的な市場調査会社であるMintelの調査結果によると、世界の男性向け泡商品(シャンプー、泡洗顔料、シェービングフォーム等)の新商品数は年々増加してきています。2018年ではその中の約40%にも及ぶ商品に、保湿に対する訴求がなされています(図3)。
男性も肌を気にする時代ですね。
美容のジェンダーレス化と言われていますが、日本での男性用化粧品の使用はまだまだ若い世代が中心のようで、その使用率は世界的に見ても低いようです。一方で世界の流れから見れば、海外はもとより日本国内でもジェンダーレス化が益々進むことは明らかなことです。この先大きな伸びしろがあるといえるでしょう。
「化粧は女性がするもの」という固定概念を振り払い、これからの伸張市場に目を向けてみてはいかがでしょうか。
(2019年9月)