第3回「酸化防止のための抗酸化素材」
酸化の原因を除くことで酸化を防ぐことはできるのか?
酸化の原因としては、熱、光、酸素、食品中に含まれる金属イオンや光増感物質などが挙げられます。まずはこれら酸化要因を可能な限り排除することを考えてみましょう。
熱
熱による酸化は、流通時や倉庫での長期保管時等でも生じることがあります。冷蔵・冷凍条件での流通や保存が望ましいですが、巨大な冷蔵・冷凍倉庫を準備するとなると、常温管理の場合と比較して当然大きなコストがかかります。また、飲食品製造時における殺菌工程や、コンビニエンスストアのカウンター等で販売されるホットショーケース中の製品において、酸化要因である「熱」を除くことは基本的に困難です。
光
光による酸化は、一般に飲食品を遮光フィルムやアルミパウチなどで覆うことにより対策が可能です。しかしながら光を完全に遮断してしまうと、消費者は購入時に飲食品の状態を確認することができません。消費者目線では内容物が全く分からない商品よりも、明るい店内で光を浴びて鮮やかな色味を呈する商品の方が、より美味しそうに映るのではないでしょうか。
酸素
食品は酸素に晒されるほど急速に酸化が進行します。そのため真空包装や、脱酸素剤により酸素を除くことは効果的な酸化防止方法です。しかし全ての食品群に真空包装を適用できるわけではありませんし、近年では省資源化が進んでおり、PETボトル容器や包装フィルムの薄膜化が酸素透過性を上げているという問題も生じています。
このように酸化要因を除く対策には飲食品の製造・販売において無視できないデメリットも多く、求められる品質維持において不足する部分には、酸化防止剤を併用することで酸化防止効果を高める対策を行います。
抗酸化素材の種類
抗酸化素材としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、トコフェロールなどが古くから用いられています。これら抗酸化素材はそれぞれ機能や性質も異なり、目的に応じて適切な抗酸化素材を選択することが重要です。
合成酸化防止剤
ジブチルヒドロキシトルエンや、ブチルヒドロキシアニソールといった合成酸化防止剤は、酸化防止効果に優れる一方で、健康に好ましくない影響を与えることが指摘されており、現在は添加量、添加する食品の種類などが厳しく制限されています。必ずしも合成酸化防止剤の全てが有害である訳ではありませんが、消費者イメージにおいてもやはり合成酸化防止剤の使用は敬遠される傾向にあるのではないでしょうか。
ビタミンC
ビタミンC(アスコルビン酸)は油溶性物質への親和性が低く、食品に含まれる脂質類の酸化防止効果については劣りますが、飲料等の水系の飲食品には多く使用されている抗酸化素材です。しかしながら、高濃度のビタミンC使用が劣化を促進する場合があることも知られています。またビタミンCと相性の悪い食品成分も多く存在し、ビタミンCが異臭や変色の原因となる場合があることにも注意が必要です。
ビタミンE
油溶性の抗酸化素材であるビタミンE(トコフェロール)は、安全で且つ脂質類の酸化劣化に対して優れた抑制効果を示すことから、様々な分野で幅広く利用されています。一方でビタミンEのような油溶性の抗酸化素材を、水系の飲食品に直接添加することは困難ですし、乳化して添加する場合もその乳化状態によっては本来の酸化防止効果を十分に発揮することができません。
ポリフェノール
多くの植物に含まれているポリフェノール類もまた、有用な抗酸化素材の一種です。代表的なポリフェノールとして、茶葉に含まれるカテキンや、ブドウの果皮等に多いアントシアニン、コーヒー豆等に含まれるクロロゲン酸、ビタミンPの一種として知られるルチンなどが挙げられます。これらポリフェノール類は飲食品や食品原料に元々含まれている場合も多く、酸化防止にも役立ちますが、同時にその飲食品の風味や色調にも寄与している成分です。ポリフェノール類が酸化防止に作用し消費されてしまう場合も、やはり飲食品の品質への影響が懸念されます。
カロテノイド
カロテノイド類は黄・橙・赤色などを呈する天然色素の一群であり、代表的なものとしてはβ-カロテンやリコペン、ルテイン、アスタキサンチンなどが挙げられます。これらは飲食品にも多く含まれており、酸化によって分解されやすく退色してしまう一方で、有用な抗酸化素材としても知られています。特に酸化エネルギーの高い活性酸素の一種である、一重項酸素の消去において高い活性を示すことが特長です。
より効果的な酸化防止剤設計に向けて
食品の種類や酸化要因によっても酸化劣化は全く異なるものとなり、それに応じて抗酸化素材も様々な機能を有するものが存在しています。そのため、飲食品の酸化劣化防止において一種類の抗酸化素材のみで、十分な効果と実用性のどちらもを実現できる可能性は低いと言えます。また、飲食品製造時の加熱殺菌工程や、日光下での商品陳列といった短期的に強い酸化条件に晒される場合には、酸化防止剤を使用していても飲食品の酸化劣化速度に追いつかず、十分な抗酸化効果が得られていない場合も多く見られます。さらに酸化防止剤の添加自体が飲食品の風味に影響を与える場合や、酸化防止効果を発揮すると共に抗酸化素材が変化し、異味異臭や着色等の原因となる場合があることにも考慮が必要です。
食品の酸化は風味を損なうだけでなく、健康面でも酸化劣化物の摂取は決して好ましくはありません。安全で効果的な酸化防止剤を使用することは、より安心で豊かな食生活を送ることに役立ちます。
酸化防止剤の有効利用には、食品の酸化反応を十分に理解し、目的に応じて適切な抗酸化素材を組み合わせ、抗酸化素材の活性を上手く引き出す設計を行うことが重要です。次回は、抗酸化素材の活性を最大限に引き出す太陽化学の『製剤化技術』と、飲食品の酸化劣化防止に最適な『酸化防止剤製剤』についてご紹介致します。
(2017年12月)