泡の魅力を科学する ~触り心地のレオロジー評価~
世の中は泡だらけ!?泡の魅力とは?
「泡」といえば、何を思い浮かべますか? ビール!カプチーノ!メレンゲ!それからハンドソープ!そんな声が聞こえてきそうです。 それ以外にも、アイスクリーム、スポンジケーキ、シャンプー、洗顔料、ボディソープなど身近にある多くのものに「泡」が関係しています。最近では、泡状のしょうゆやドレッシング、ポン酢など「泡調味料」も話題となっているようです。
このように私たちにとって「泡」は身近な存在ですが、泡が嫌いという方は少ないのではないでしょうか。ふわふわでやわらかく、優しそう、そんなイメージが、おいしそう、気持ち良さそうと思わせ、気分を高めてくれるからかもしれません。また、例えば洗顔料であれば、きめ細かく、もっちりとした泡が、より効果がありそうと感じさせ、満足感を高めてくれるからかもしれません。「泡」にはそれぞれたくさんの魅力がつまっています。
泡をどう測る?
一般的に泡の物性(物理的な性質)は、ふわふわ、もっちり、弾力があるなどの触り心地や口当たりのような食感を表す語を用いて人の感覚で評価する官能評価により評価されてきました。 また近年では、食感や触り心地においても、客観的かつ定量的な評価方法が期待され、テクスチャーメーターや泡量試験などさまざまな機器測定が検討されています。さらに、客観的な評価手法として取り入れられているのが“レオロジー”です。 レオロジーとは物質の流動と変形を扱う学問のことと一般的に説明され、学問の分野としては物理化学となり、数式が多くあまり馴染みのない分野かもしれません。しかし、世の中の現象を理解する上で非常に役に立ちます。 太陽化学では、レオロジー測定を用いた泡の触り心地の見える化に取り組んでいます。 今回は、洗顔料の泡を例にご紹介いたします。
▼レオロジーについて、より詳しく知りたい方はこちらへ
ゼロからのレオロジー
泡の動的粘弾性測定
ここで紹介する化粧品分野を対象とした泡の評価は、レオロジーを議論するうえで重要な指標となる動的粘弾性測定を用いて行いました。動的粘弾性測定とは、物質に動的なひずみを与えたとき、どのような応答が返ってくるかをみる試験です。
動的粘弾性測定装置(ひずみ制御型レオメーター、ARES-G2、ティー・エー・インスツルメント製)を用いて、評価を実施しました。 泡は泡洗顔料の市販ポンプ容器を使用し調製しました。泡をスプーンで乗せ、円盤状の冶具をおろし、GAP(隙間)をセットしたのち、速やかに測定を開始しました。
測定状況は動画をご覧いただくとお分かりいただけます。円盤は右回転、左回転を交互に繰り返します。この回転が動的なひずみにあたり、その応答をセンサーで感知します。回転の幅(ひずみ振幅)と回転速度(ひずみ周波数)、測定温度の3つのパラメーターを変えて測定することが可能です。
一方、泡の物性を測定するうえの重要なファクターとして、泡の消失があります。泡は時間が経つにつれ消えていくものです。泡触感の見える化を検討する前に、本手法が泡の経時的な変化を観測できるか確認する必要がありました。そこで、上記3つのパラメーターは固定し、時間変化を測定しました。
≪基本条件≫
ステンレス製50mmφパラレルプレート、プレート間のGAP 1.0mm
ひずみ周波数 10Hz、ひずみ振幅 0.5%、測定温度 20℃
泡の消え方を捉えられると考え、バネのような固体的性質を示す貯蔵弾性率G’の時間変化を測定しました。その結果を図3に示します。弾性率は時間経過に伴って、指数関数的に減衰していることが分かります。また、図中の写真は、泡の顕微鏡観察結果ですが、時間経過とともに液膜が消滅し、泡の粗大化が進行していることが分かります。つまり、本測定手法は概ね妥当であることが確認できました。
動的粘弾性測定と官能評価(触り心地)の相関性
次に、市販の泡洗顔料5種を用い、ひずみ振幅を50%、100%と変え、同様に動的粘弾性測定を行いました。その結果から各種パラメーターを算出しました。
一方で、同じ泡洗顔料5種それぞれの泡に対して、パネル5名により、官能評価を実施しました。所定量の試料を手のひらにとり、一定時間ごとに項目について評価しました。表1の評価項目について、0から5点の1点刻みで評価しています。
表1.官能評価項目
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- 吐出直後の印象
- もこもこした泡
豊かな泡
きめ細かな泡
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- 使い始めた時の印象
- ふわっと/ふんわり/ふわふわな泡
もっちり/もちもち/弾力のある泡
濃厚/濃密な泡
リッチな泡
クッション性のある泡
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- 使い続けた時の印象
- 柔らかな泡
なめらかな泡
クリーミーな泡
すべりがいい泡
つぶれない泡
気持ちが良い泡
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- 使用後の印象
(最初の泡と比較して) - 泡の量
泡のきめ細かさ
泡の質
- 使用後の印象
ひずみ振幅を50%、100%とした動的粘弾性測定の結果から算出される各種パラメーターと各評価項目の官能評価の結果を比較し相関性を確認したところ、下記に示す2つのペアで相関関係があることが分かりました。
表2.相関性が高い項目
さまざまな泡の触り心地・食感の見える化に向けて
ここでは、動的粘弾性測定を用いた泡の評価手法について紹介いたしました。泡の時間変化を捉え、種々のパラメーターを算出することで、吐出直後の印象から使い続けた時の印象まで、泡の多様な使用感と高い相関を示すパラメーターをいくつか見出すことができました。 レオロジー測定を用いた化粧品分野の泡の評価の一例として紹介いたしましたが、さまざまな泡の物性評価と官能評価を結びつける一助となれば幸いです。
(2016年2月)
<論文情報> 日本レオロジー学会誌 Vol.43, No.3-4, P71-75, 2015.