【第3回】乳化剤の基本的性質
1.ミセルと臨界ミセル濃度(cmc)
乳化剤分子のもつ特徴の一つに、分子同士が集まりミセルという集合体を形成するというものがあります。
乳化剤を水に溶かしていくと、希薄な状態では、水中に単分散していますが、濃度を次第に上げていくと、水と空気の界面に吸着していきます。更に濃度を上げていくと界面に吸着しきれなかった分子同士が集まり、水になじみやすい親水基を外側に、水になじみにくい親油基を内側にしてミセルを作り出します。このミセルが出来始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc)といいます。cmcは乳化剤を使用する際の必要最低濃度を知るための目安であり、乳化剤は通常、cmc以上の濃度で使用されます
水溶液中での乳化剤分子の状態
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2.HLBと乳化の型
乳化剤分子は油になじみやすい性質と水になじみやすい性質をもっていますが、その親油性と親水性のバランスを表したものがHLB(Hydrophile- Lipophile Balance、親水性親油性バランス)です。HLBとは、親水基を持たない物質をHLB=0とし、親油基をもたず親水基のみを持つ物質をHLB=20として等分したもので、親油性と親水性を併せ持っている乳化剤はその間の値をとることとなります。親油性に対し親水性が大きいほどHLB値も大きく、水に溶けやすい性質の乳化剤であり、逆の場合は水に溶けにくい性質となります。
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乳化の型には水の中に油が粒子となって分散している水中油型(O/W型)乳化と、油の中に水が粒子となって分散している油中水型(W/O型)乳化があります。このうちどちらの乳化にしたいかは、乳化剤のHLBにより決めることができます。水と油に乳化剤を加え混ぜ合わせた時、水に溶けやすい高HLBの乳化剤を使用すると親水基を外側に親油基を内側にして油の粒子を閉じ込めるO/W型乳化となります。
反対に水に溶けにくい(油に溶けやすい)、低HLBの乳化剤を使用すると親油基を外側に親水基を内側にして水の粒子を閉じ込めるW/O型乳化となります。
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3.HLBと乳化剤の用途
乳化剤は界面に作用するという特性を生かして乳化目的以外にも多くの用途に使われます。HLBが分かるとその用途が推測されるため、数多くの物質の中から目的にあった乳化剤を選択するときの目安となります。
乳化剤のHLB値と主な用途
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この内、乳化以外の用途について簡単にご説明します。
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1.消泡剤
製造ラインで発生した泡は充填効率を下げたり、
製品の不良化率を上げるなど大きな問題となります。
低HLBの乳化剤はそれらの泡を消す働きをもっています。
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2.湿潤剤
濡れにくい固体表面を水に濡れやすくするのが湿潤です。
例えばチューインガムに乳化剤を練りこむとガム表面が濡れやすくなり
歯(特に義歯)に付着するのを防ぎます。
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3.洗浄剤
洗浄は石鹸や衣料用洗剤などに代表される最も身近な乳化剤の用途です。
食品工業に使用される洗浄剤は食器や野菜など
直接口に接触するものが多いため特に安全性が優先されます。
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4.可溶化剤
可溶化とは、分散している粒子を極端に小さくすることで、
水に溶けない物質が溶けたかのような透明な状態を作り出すことです。
例えば、油性の香料を可溶化することで透明な飲料に加えることができます。