【第6回】乳化剤の新機能?油脂を「固める」効果
乳化剤は「乳化」だけでなく、様々な機能があることをご紹介しておりますが、太陽化学では乳化剤の特徴的な機能の一つである油脂の増粘及び固化を付与できる製品としてTAISETを上市しています。
TASETの油脂固化作用は、油脂中に溶解したTAISETが低温で再結晶化する事に起因し、その網目構造の中に液状油脂が包括される事により、油脂の固体化現象が発現するものと考えられます。液状油脂であれば例外なくその効果を発揮することが可能です。
基本的なTAISETの使用方法
TAISETは液状油脂に少量添加することで効果を発揮致しますが、その調製方法により液状油脂の増粘及び固化の程度が異なります。理想の粘性を付与するためには、添加量・加熱溶解方法・冷却方法の3点に注意する必要があります
① 添加量について
添加量を増やすほど増粘及び固化の力価は高くなります。例えば、常温のオリーブ油にTAISET50を添加して、70℃で完全溶解させ、高温のままプレートに滴下して静置放冷しました。このプレートで傾斜試験を行った結果から、添加量と増粘及び固化の力価目安がわかります。
② 溶解方法について
油脂の種類に限らず、TAISET50を油脂に添加して、70℃まで昇温させます。溶け残りが無い様に完全に溶解をして下さい。溶け残りがあると、増粘効果が発揮致しません。
③ 冷却方法について
冷却時の条件によっても増粘効果は変化します。冷却過程時にTAISETの網目構造が徐々に形成されるため、この形成を阻害するような操作を行うと冷却後の粘度は低くなります。
より透明性の高い状態で油脂を増粘及び固化させたい場合には
TAISET50は油脂の固化時に白濁してしまい透明感が得られない点が課題ですが、太陽化学では新しく透明性を保ちつつ増粘及び固化を達成できるTAISET ADを開発しております。TAISETとTAISET ADを比較すると、以下のように同程度のゲル強度で透明感に大きな違いが出ます。
また、ゲル化した油脂の融点とゲル化開始温度も以下のようになり、TAISETの融点とゲル化温度の差が40℃ほどなのに対して10℃程度と、扱いやすいことも特徴です。
透明なまま油脂を固化できる理由は、その網目構造の違いに起因します。TAISET-ADの場合はTAISETよりも広い空間を有する網目構造を形成していることが顕微鏡観察により分かっており、これが透明性を付与する理由と考えております。
透明性を保ちつつゲル化を達成できることから、新しい応用の可能性が広がります。
TAISETの応用で加工食品をもっと美味しく!
TAISETは、油脂そのものだけではなく、様々な加工食品への応用が可能です。油脂の含有量が高い食品であれば、ホイップクリームの保型性向上やバタークリームの油分分離や移行防止に活用いただけます。例えば、ゴーフレット皮とそこに挟むクリームについて移行状態の試験を行うと、油分の多いクリームは経時的にゴーフレット皮に染み込んでしまいますが、TAISETにより油脂の物性をコントロールすることで油分の移行を防ぐことができます。
油脂含有量が少ない加工食品でも、中食向けの炒め物やレンジアップを想定した調理麺などでも油脂の物性コントロールを利用して風味増強や水分移行防止等に活用可能です。
例えば、「焼きそば」ですが、調理後暫く経過した状態ではソース類が麺に染み込んでしまい、実際に食べる時には香ばしい風味を感じられません。この炒め油にTAISETを添加すれば、常温や冷蔵条件下での保存時にソース類が麺に染み込まず、レンジアップすれば、香気成分が広がり、まるで出来たての風味を再現する事が可能です。これは、TAISETを炒め油に添加したことで、麺表面に油がコーティングされた結果と考えております。その為、風味増強だけでなく、艶感やほぐれ性も向上致します。
「油脂を固める」というと、その機能は単純ですが、油脂物性をコントロールすることで、様々な加工食品の価値向上の可能性を秘めている、それがTAISETの機能です。
(2018年8月)