アイスクリームにおける増粘安定剤の役割
現在アイスクリームはアイスクリームショップやコンビニエンスストア等の商店のみならず、自動販売機の普及によっていつでも誰にでも手軽に楽しむことが出来る食品となっています。そのアイスクリームの品質は風味、色調、組織、ボディ感等の要因で評価されますが、これらの要因のほとんどに原料の特性や品質が影響することが知られています。原料の選択がアイスクリームの品質に大きく影響するといっても過言ではありません。
今回、アイスクリームの設計上、最も重要な原料のひとつとしてあげられる増粘安定剤にスポットをあてて紹介致します。増粘安定剤は目的に適したアイスクリームの組織を作り出す重要な役割を担っています。私たちが注力して研究開発を進めている増粘安定剤は、昨今のバリエーションに富んだ食感のアイスクリームを生み出す原料として大きく関わっています。
氷結晶の大きさは、アイスクリームの食感に大きく影響を及ぼす要素のひとつです。氷結晶の大きさを増粘安定剤でコントロールすることにより、アイスクリームに冷涼感や口溶けがなめらかな食感を与えることが可能です。その他にも増粘安定剤は、原料調味液(ミックス)中の粘度、乳化、気泡性等に影響を与えることが知られています。
氷結晶の成長防止とコントロール
一般に増粘安定剤と呼ばれているものは、アイスクリーム組織を滑らかにし、保型性をよくし、空気の混入量(オーバーラン)をコントロールしています。
アイスクリームにおける増粘安定剤の注目すべき働きとしては、フリージング中の氷結晶のできる速度を緩め、フリージング操作と相まって氷結晶を細かくし、出来た氷の粒子同士の接触を防ぎ液相部の粘度を増して安定化させることです。特に全固形分が少ない場合、増粘安定剤は氷の粒子の間に入り、流動性を助けて作業性を向上させています。
それに加え、アイスクリームに増粘安定剤を使用する重要な目的の1つは、フリージング時の硬化及び貯蔵中の氷結晶の成長を抑制することです。ミックス中の水と水溶性高分子である増粘安定剤とが水和することで遊離水が少なくなり、凍結する時の氷結晶の成長抑制して氷結晶を小さくし、また、貯蔵中の氷結晶の成長を抑制しています。
以下にアイスクリームによく利用される増粘安定剤の特徴を示します。
「グァーガム」
インドやパキスタン地方の豆科(一年性植物)の種子から得られる冷水可溶の増粘安定剤です。噛みごたえのある食感のアイスクリームが得られます。
「ローカストビーンガム」
地中海沿岸、スペイン地方の常緑樹の種子から得られる増粘安定剤です。口溶けがよく、保型性の良いアイスクリームが得られます。
「カラギナン」
紅藻類海藻から得られる増粘安定剤で、カッパ型、イオタ型、ラムダ型の3タイプに分類されます。アイスクリームには主としてカッパ型が使用されています。優れた保型性を示し、少量の添加量でアイスクリームの保型性向上、ミックスのホエー分離防止効果が得られます。
「タマリンドガム」
インド産の常緑樹の種子から得られる増粘安定剤です。口溶けの良いアイスクリームが得られます。氷菓用としてよく利用されます。
「ゼラチン」
動物の骨や皮等より抽出精製される増粘安定剤です。古くから使われている代表的な増粘安定剤で、氷結晶が細かく滑らかな食感が得られます。シャーベット類のオーバーランを高くする効果もあります。
その他にも、アイスクリーム製造時に期待される増粘安定剤の具体的な効果を以下にまとめました。
- ミックスの粘度を適度に保つ
- エマルジョンの安定性を良くする
- フリージング中のエアレーションを助長してオーバーラン性を向上させる
- 良好な組織とボディ感の付与
- 保存安定性を向上させる
- 保型性を向上させる
これら一連の効果を網羅することで、適度な粘性や保水力の良いミックスが出来ます。更にはアイスクリームに求められるボディ感、保型性や保存安定性などもコントロールすることが容易になります。すなわちこれらの効果を更に簡便に引き出すのが増粘安定剤の選択・配合、そして製剤化することなのです。
太陽化学では、アイスクリーム向けやシャーベット向けにも安定剤製剤を研究・開発しています。チューイング性の向上など食感のコントロールや糖蜜分離抑制など品質保持など、目的に合わせて製剤化しております。