新たな視点から風味を演出　油脂の挙動コントロール

乳化剤が得意とするのは、界面での働きです。食べ物を口にしたときで言えば、食べ物と舌、食べ物と唾液、食べ物と口腔内の空気…。食べ物を味わうときにも、乳化剤が活躍する界面は至るところに存在しています。
太陽化学では、半世紀以上にわたって様々な乳化剤を研究・開発してきました。この知見を活かし、「食品の物性を変える」というわかりやすい使い方にとどまらずその「風味の演出」まで検証し、ご提案しています。

口腔内での油脂の挙動を変える【スーパーエマルジョンEM】

乳化剤が口腔内で界面に作用する、という現象をイメージしやすいのは、油性食品を食した際の働きでしょう。この効果が最もわかりやすいスーパーエマルジョンEMという乳化剤でご紹介いたします。

こちらは牛の舌にチョコレートを塗布し、温水で洗浄した後の落ち方を比較した試験結果です。無添加のチョコレートは温水で流す程度ではほとんど洗浄されず、舌にべったりと残ってしまいます。スーパーエマルジョンEMを添加した試験区を見てみると、少量の痕跡はあるものの、無添加と比較して舌に吸着しておらず、明らかに洗い流されやすくなっています。

乳化剤を添加するだけで、なぜこのような効果が生まれるのでしょうか。咀嚼した際のチョコレートを想像してみましょう。
口の中で唾液とともに咀嚼されるチョコレートは、油性食品であるため唾液と混ざりにくく、舌にこびりついてしまいます。スーパーエマルジョンEMを添加すると、咀嚼時にチョコレートと唾液との乳化を促進させO/W乳化状態への変化が容易になるため、舌に吸着しすぎず唾液と混ざりやすくなります。
今回の試験では唾液と咀嚼の代わりに温水を流しましたが、効果は同様です。スーパーエマルジョンEMによって温水との親和性が高くなった結果、舌に残りにくく洗浄されやすくなった、と考えることができます。
「洗い流されやすい」ということは「口残りが変化する」。これは「口どけや後切れが改善できる」、とも捉えることができます。あぶらっこい中華料理やコーヒーがお供に欲しくなる濃厚スイーツなど、スーパーエマルジョンEMを添加することでさっぱりと食べやすくすることができるかもしれません。

減塩食品にもおすすめの呈味改質効果

上記の現象は、油脂の感じ方だけではなくそれに派生した効果を生み出します。

食品由来の油脂や口腔内にもともと存在する油脂は、舌に吸着することで呈味成分の舌へのアクセスを阻害し、味を感じさせにくくするという一面があります。このマスキング作用を改善させたいときには、スーパーエマルジョンEMの効果が有効です。油脂を乳化し舌からの離脱を促進することで呈味成分に対して舌表面を解放し、食品に含まれる味をより強く感じさせることができるのです。

この呈味成分への効果は、もちろん基本五味だけに限られたものではありません。例えば、辛味。夏はもとより、近年辛味を効かせた商品はますます定番になってきています。スーパーエマルジョンEMを添加することで、少ない辛み成分でより強い辛味を感じさせられる商品設計が可能です。

他にも、これからも引き続き需要が続いていくであろう減塩食品に対しても有効です。
高血圧は、日本では潜在的な患者数も含めると4,000万人を超える人が罹患していると言われている、最も患者数の多い生活習慣病です。高血圧の発症予防・治療において生活習慣改善による効果は高いと考えられていますが、その中でも食塩摂取量に関しては、少なくとも6g/日前半に抑えなければ優位な降圧は達成できなかった、とのデータも得られています（「日本人の食事摂取基準（2015年版）策定検討会」　報告書より）。
減塩食品をおいしくするための手段として、塩化カリウムや旨味を呈する素材は広く用いられています。これらの素材は有効な手段ではありますが、単純に添加しただけではエグ味や異味などが出やすく、味に違和感のある仕上がりになってしまうことも少なくありません。

そこで活用していただきたいのが、スーパーエマルジョンEMです。
「塩味を感じやすくさせる」という、これまでの減塩対策素材とは異なるアプローチで、減塩による物足りなさを補填することができます。
スーパーエマルジョンEMの効果は非常に繊細で、味覚センサーなどの機器で測定することは困難なほどです。それでも、機械よりも圧倒的に感度の高いヒトの感覚であれば必ず実感していただける、と言っても過言ではないほどの効果を持っています。
口どけや辛味、塩味以外にも、様々な要素に寄与しうる素材です。これだけで成り立つものではないけれど、小さな課題を独自の形でサポートしてくれる影の存在スーパーエマルジョンEM。まずは体感してみるところから、一度試してみることをオススメします。

（2019年6月）