スポーツをされる方、必見!コンディションを整える3つの要素
スポーツをする人の目的はさまざまです。本格的に記録を出したい人、代表選出を目指す人、趣味として楽しみたい人、仲間と交流したい人。しかし、スポーツをする全ての人に共通するのは、少しでも良いコンディションでスポーツがしたいと望んでいること、ではないでしょうか。体のコンディションが悪ければ、本来の力を発揮できないばかりか日々のトレーニングにも耐えられませんし、楽しみとしてスポーツしたい人も、調子が悪ければ楽しむこともできません。それでは、スポーツのためのコンディション作りに必要な要素には何があるでしょうか。ここではコンディションを整えるための“基礎”ともいえる3つの要素についてお話します。
スポーツ×睡眠
健康の三大要素は「バランスの取れた栄養」「適度な運動」「十分な睡眠」です。なかでも睡眠は疲労回復に関わるため、スポーツによる疲労の回復に重要な役割を果たします。睡眠と運動が、相互に影響しあうことも報告されています。アメリカのスタンフォード大学で男子バスケットボールの選手に対し行われた試験で、5~7週間の間、毎日睡眠を10時間とるよう推奨したところ、フリースローがよく入るようになったなど、競技パフォーマンスの向上が見られました。
アスリートに対して行われた健康調査に関するアンケートでは、体調管理で重要視していることとして最も多くあげられたのが「しっかりと眠る」という回答だったという結果もあり、実際にアスリートの方は睡眠をとても重要と考えていることがわかります。
(Mah CD, et al., Sleep. 34(7), 943?950 (2011))
しかし、いつも誰もが十分な睡眠が取れるとは限りません。アスリートならば海外遠征や合宿など環境の変化や時差ボケによる影響、一般の人ならば毎日の仕事や家事、育児・介護などで満足な睡眠が得られないことも多いでしょう。最近では、より質の良い睡眠をとるための方法やグッズ、サプリメントなども充実しています。それでは、質の良い睡眠とはどういった睡眠でしょうか?
一般社団法人 日本睡眠改善協議会が、「OSA睡眠調査票MA版」という日本人で標準化された睡眠に関する調査票を公開しています。起床時にこの調査票に回答することで、被験者の睡眠感を評価することができます。その調査項目では、「起床時眠気」「入眠と睡眠維持」「夢み」「疲労回復」「睡眠時間」が評価されます。つまり、こういった項目が睡眠の質と関わっているといえます。まずは睡眠時間を確保することが大切ですが、難しい場合もあります。また感覚としては、起きたときにスッキリ目覚めて疲れが取れている、調査票の項目で言えば「起床時眠気」と「疲労回復」がより良ければ「十分眠れた」と感じやすいのではないでしょうか。
アミノ酸の一種である「L-テアニン」には、睡眠前に摂取することで起床時の疲労感と眠気を軽減する働きがあることが報告されています。L-テアニンは、緑茶や紅茶などに多く含まれるアミノ酸ですが、緑茶や紅茶などには覚醒作用のあるカフェインも含まれるため、就寝前に飲むのはあまりオススメできません。カフェインを含まず、L-テアニンのみを使ったサプリメントなどを利用する方が睡眠にとっては良いといえます。またL-テアニンの作用は睡眠薬のような強制的に眠気をもたらすものではなく、日中に眠気を誘うようなこともないため、安心して使える素材でもあります。
スポーツ×見る力
スポーツに必要な能力は、パワーやスピードだけではありません。「見る力」も重要です。特に野球やサッカー、テニスなど、動くボールを追う球技スポーツでは、パフォーマンスに大きな影響を与えます。選手同士の激しい接触による衝撃が大きいスポーツでは、メガネやコンタクトレンズによる視力矯正は難しいため、優れた選手であるために優れた視力が求められます。
「見る力」は視力だけを指しているわけではありません。視力が良くても、物がぼやけて見えたり遠近感が分かりにくかったりなど、視覚機能に問題がある場合もあります。しかし、これは「ビジョントレーニング」と呼ばれる訓練により改善することが可能です。ビジョントレーニングとは、眼が本来持っている力を向上させるため、眼球運動トレーニングや視覚情報処理能力トレーニングなどを行うことです。最近では、プロ野球の新人選手に対し、ビジョントレーニングを行っているところもあるそうです。
さらに、屋外でするスポーツでは太陽からの有害な紫外線やブルーライトによる眼へのダメージが懸念されます。蓄積されたダメージは、眼病を引き起こし、眼の老化を促進させます。私たちは、眼球の奥にある網膜に光の像を写し出してモノを見ているので、網膜は「モノが見える」ためにとても重要なところです。強い太陽光には紫外線やブルーライトも多く含まれるため、浴び続けると網膜にも影響があることが知られています。とくに、網膜の中心部にある「黄斑」と呼ばれる部位は、紫外線やブルーライトによるダメージを受けやすく、「黄斑変性症」という失明を引き起こす可能性のある眼の病気につながる可能性があります。
太陽光から眼を守るのに一番早い方法は、サングラスをかけることです。特に、青色光をカットする黄色系、オレンジ色系、茶色系のレンズが網膜保護に適しているといわれています。さらに、体の内側からは紫外線・ブルーライトから守ってくれる栄養素を多く含む食材を食べることも眼の保護に役立ちます。眼によいといわれる栄養素は、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB2、βカロチン、亜鉛、アスタキサンチン、ルテインなどがあります。特にルテインには、黄斑部の色素量を上昇させ、加齢黄斑変性を予防したり、コントラスト感度を改善して眼の調子を整えたりする機能が報告されています。
一流選手を目指すわけでなくても、すっきり見やすい方がスポーツも楽しめますし、安全面を考えても「見る力」はスポーツにとって重要です。
スポーツ×貧血
アスリートの健康管理で専門家でも苦労するのが貧血対策だといいます。貧血はアスリートに多い内科的疾患として最もよくみられるもののひとつです。
貧血にもいくつか種類があります。中でも「希釈性貧血」、「運動性溶血性貧血」などは激しいスポーツをする人に多い貧血です。
「希釈性貧血」とは、循環血漿量の増加により発生する見かけの貧血のことです。運動やトレーニングをしはじめると、末端までの血液の循環を良くしようとして血液の液体成分である血漿を増やし血液を薄くしようとします。一方、ヘモグロビンの量はすぐには増えないため、ヘモグロビン濃度としては低くなってしまいます。希釈性貧血自体は一時的なものであるため、これに対して貧血の対策をする必要はないといわれています。
「運動性溶血性貧血」とは、足裏の衝撃により赤血球が壊れやすくなることで起こる貧血です。赤血球の寿命は通常120日程度ですが、脊髄で新しく作られることにより常に一定に保たれます。しかし、壊れてしまう赤血球の数が新しく作られる数を上回ってしまうと、血液中の赤血球が少なくなり、貧血となってしまいます。マラソンや駅伝など陸上の長距離、サッカー、バレーボール、バスケットボール、剣道など、足裏に衝撃の強いスポーツに特に多いといわれています。
スポーツ選手に限らず、臨床的に貧血と診断される中で最も多いのは鉄欠乏性貧血です。ただ、スポーツ選手の場合、一般人に比べて鉄を損失してしまう機会が多くあります。例えば、汗にはさまざまなミネラルが含まれますが、汗腺で分泌されてから皮膚の表面に出るまでの間に再吸収することが知られています。しかし、激しい運動で急激に汗をかくと、再吸収の仕組みが追いつかず、汗とともに体外へ排出されてしまいます。日常的にトレーニングを行うスポーツ選手であれば、1日にかく汗の量は一般人の何倍にもなるため、汗から損失する鉄の量も多くなってしまいます。また上記で紹介した溶血性貧血の場合、尿に赤血球の中身であるヘモグロビンが見られる場合があります。そのような場合にはヘモグロビンとともに鉄も排出されてしまうと考えられます。また激しい運動により消化管から出血することも報告されています。
このように、スポーツ選手には貧血が起こりやすい条件が重なっています。しかし、なぜそこまでスポーツ選手にとってそれほど貧血が問題となるのでしょうか?それは、貧血が運動のパフォーマンスに深く関わっているからなのです。
体内の鉄分は、大半がヘモグロビンとして赤血球の中にあり、酸素を運搬する役目を果たしています。持久系の運動の場合、エネルギーを作り出すために、はじめはブドウ糖を燃やし、その後、脂肪や筋肉中のグリコーゲンが使われエネルギーとなります。「有酸素運動」と呼ばれるとおりエネルギーの産生には酸素が必要であり、このとき全身に酸素を運んでいるのがヘモグロビンです。ヘモグロビンが多い方が効率よく酸素を運ぶことができるため、持久力のアップ、つまりスタミナの維持につながるのです。
しかし、1日に必要な鉄分を毎日食事だけから摂取するのは実際にはなかなかできません。特にスポーツ選手の場合、損失する鉄が多いため、厚生労働省が定める食事摂取基準を超えた鉄を摂取することを勧める専門家もいます。食事だけから摂れる鉄の量が足りない場合は、サプリメントなども活用も勧められています。