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学術コラム 学術コラム

5.ミネラルと時間栄養
掲載日2023年4月28日

田原 優
広島大学大学院 医系科学研究科
公衆衛生学 准教授

カルシウムは夜に

カルシウムは、骨・歯の形成や、神経や筋肉の正常な機能に必要なミネラルの一つです。しかし摂取したカルシウムは、腸管でしっかりと吸収されず半分以上は排泄されてしまいます。一般的にカルシウムの吸収率は20-40%程度と言われており、年齢が上がるにつれ吸収率はさらに低くなります。特に高齢者は、骨強度が低下し、骨粗鬆症やフレイル(虚弱)が起こりやすく、一度骨折してしまうと回復も遅くなりQOLの著しい低下をもたらします。そこで、せっかく摂取したカルシウムを効率よく体内に取り込む方法を知っておくことが大事になります。ここでは、時間栄養学として、カルシウムの摂取タイミングの話をします。

結論を言うと、カルシウムは朝よりも夜の方が、吸収率が高い可能性があります。まだマウスを用いた動物実験の研究報告しかありませんが、小腸のカルシウムを吸収する機構は、体内時計による調節を受けており、朝と夜でその機能が異なっていることが分かってきました。カルシウムを特殊な方法で標識して、マウスに投与し、その後の血液への吸収を見てみると、マウスが起き始めた時間帯(朝)よりも、寝始める時間帯(夜)の方がカルシウムの吸収が高い結果でした(1)。

別の研究では、カルシウムと一緒にイヌリンという水溶性の食物繊維を投与し、尿中のカルシウム排泄を観察しました(2)。その結果、やはり朝よりも夜の時間帯の投与で、尿中のカルシウム濃度が高まっていました。カルシウムはカルシウム単体で摂取するよりも、食物繊維やタンパク質、ビタミンDなどと一緒に摂取することで、吸収効率が高まることが知られています。この実験で使用された食物繊維は、腸内細菌によって短鎖脂肪酸に変わり、小腸や大腸のpHを下げます。腸管内のpHが下がることで、カルシウムの溶解度が上がり、吸収効率が高まります。このメカニズムはカルシウムだけでなく、鉄や亜鉛などのミネラルにも当てはまります。よって、骨の健康維持には、夕食時や寝る前にカルシウムを意識して摂取することが大事です。

鉄は朝が効果的?

鉄は体内で赤血球の成分であるヘモグロビンの合成に必要な栄養素であり、貧血や疲労感の原因になることがあります。鉄の推奨摂取量は、成人女性で1日あたり6.5mg(月経なし)、または10.5mg(月経あり)、成人男性で1日あたり7.5mg程度とされています。20代から40代の日本人女性の約25%が貧血もしくはその前段階の状態にあるとされており、注意が必要です。鉄は動物性食品に多く含まれており、特にレバーや赤身の肉、貝類などが良い摂取源となります。一方、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は吸収率が低いため、野菜や穀物からの鉄摂取は十分ではない場合があります。ただし、ビタミンCを多く含む果物や野菜と一緒に食べることで、植物性食品からの鉄吸収率を高めることができます。また、鉄を含むサプリメントも効果的です。

腸管における鉄の吸収にも、日内リズムが見られるという動物実験(ブタ)の報告があります(3)。鉄の吸収は、植物性タンパク質よりも、動物性のタンパク質と一緒に摂ると吸収効率が上がることが知られています。ラットを用いた研究では、動物性タンパク質と鉄が含まれる餌を、ラットの起き始めの時間帯(朝)に給餌する方が、寝始めの時間帯(夜)にあげるよりも、より血中の鉄濃度が高まったという報告があります(4)。よって、鉄は朝に摂取した方が効率的かもしれません。

鉄を摂取すると、肝臓からヘプシジンというホルモンが分泌されます。ヘプシジンはからだの中の鉄濃度を調節するホルモンで、鉄が沢山体内に入ってくると、その後の吸収を抑える効果があります。人のヘプシジンの血中濃度は、朝から夕方にかけて高くなることが報告されています(5)。さらに、鉄サプリメントを摂取したあとは、24時間以上ヘプシジンが高い状態が続くという報告もあります(6)。これらを統合すると、鉄サプリメントは、夕方よりも朝に、1日1回摂取した方が、吸収が高い可能性があります。実際に朝夕でしっかりと比較した研究が少ないので、まだまだ研究途上ですが、このような吸収の日内リズムが、普段何気なく摂取しているサプリメントや食品の効果を変えている可能性があるのは事実です。時間栄養学の今後の研究を、ぜひ今後も注目いただき、皆さんの生活の中でも実践してみてください。

※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

参考文献
1. Kawai M, Kinoshita S, Yamazaki M, Yamamoto K, Rosen CJ, Shimba S, et al. Intestinal clock system regulates skeletal homeostasis. JCI Insight. 2019;4(5).
2. Shiga K, Haraguchi A, Sasaki H, Tahara Y, Orihara K, Shibata S. Effect of circadian clock and claudin regulations on inulin-induced calcium absorption in the mouse intestinal tract. Bioscience of Microbiota, Food and Health. 2022;advpub.
3. Zhang Y, Wan D, Zhou X, Long C, Wu X, Li L, et al. Diurnal variations in iron concentrations and expression of genes involved in iron absorption and metabolism in pigs. Biochem Biophys Res Commun. 2017;490(4):1210-4.
4. 出口 佳, 江良 真, 花田 玲, 前田 朝, 西田 由. 1日の食べ合わせによる鉄の腸管内吸収リズムへの影響. 紀要 = Annual report of Tohoku Women's College and Tohoku Women's Junior College. 2017(56):114-8.
5. Kroot JJ, Hendriks JC, Laarakkers CM, Klaver SM, Kemna EH, Tjalsma H, et al. (Pre)analytical imprecision, between-subject variability, and daily variations in serum and urine hepcidin: implications for clinical studies. Anal Biochem. 2009;389(2):124-9.
6. Stoffel NU, von Siebenthal HK, Moretti D, Zimmermann MB. Oral iron supplementation in iron-deficient women: How much and how often? Mol Aspects Med. 2020;75:100865.

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