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学術コラム 学術コラム

2.タンパク質と時間栄養
掲載日2023年4月28日

田原 優
広島大学大学院 医系科学研究科
公衆衛生学 准教授

朝はタンパク質が不足しがち

「サルコペニア」という現象をご存知でしょうか?サルコペニアとは、加齢により筋肉量が減少したり筋力が低下することを指します。高齢者に多く見られ、歩行や立ち上がりなどの身体機能の低下や転倒、骨折などのリスクを増加させます。栄養不足や運動不足は、サルコペニアのリスクを高めます。筋肉は、合成と分解のバランスによって調節されているため、筋肉合成に必要なタンパク質、アミノ酸を供給することは、筋肉の合成、増強につながります。よって、タンパク質を効率よく摂取することは、高齢者のサルコペニア予防に重要というわけです。

最近の研究では、朝食に摂取するタンパク質がサルコペニアの予防に役立つことが示されています。日本人のタンパク質摂取量の平均値は、朝食15.6g、昼食22.8g、夕食33.0gでした (20-81歳、2013年度国民健康栄養調査の解析結果より) (1)。つまり、朝:昼:夕=2:3:4程度の割合でタンパク質を摂っており、朝食におけるタンパク質量は、1日の中でもっとも少ないことが分かります。確かに朝は、牛乳とパンと卵だけといった形で、エネルギーそのものもそうですが、タンパク質の摂取も1日のなかで少なくなりがちです。ちなみに牛乳1杯でタンパク質は5g、パン一切れで4g、卵一個で6gなので、タンパク質は合計15gです。

高齢者は朝のタンパク質をより多く摂ってほしい

ここで大事なのは、筋タンパク質の合成を100%促すためには、高齢者で体重1kgあたり0.4g、若年者で1kgあたり0.24gのタンパク質を1食で摂取する必要があるという研究結果です(高齢者は平均71歳、若年者は平均22歳で計測したデータ)(2)。つまり、若者に比べて、高齢者はタンパク質を摂っても筋肉での応答が鈍く、筋合成のためには若者よりも多くタンパク質を摂取する必要があります。計算すると、体重が50kgだとしたら、高齢者では20g/食、若年者では12g/食ということになります。高齢者の20g/食は、上述の日本人の平均的な朝のタンパク質摂取量からするとクリアできておらず、朝食後には筋合成のスイッチがしっかりと入らないことが分かります。また、逆にこれ以上タンパク質を摂っても、すでに筋タンパク質の合成が100%稼働しているので、それ以上の効果は見込めません。よって、筋肉に関していえば、夕食時は逆にタンパク質を摂取し過ぎているともいえます。

この結果を裏付けるものとして、日本人の高齢者女性を対象に、食習慣と握力や骨格筋指数の関連を調べた研究があります(3)。食習慣から、夕食よりも朝食に多くタンパク質を食べている人と、夕食に多くタンパク質を食べている人を比較しています。その結果、朝食に多くタンパク質を摂っている人の方が、握力や骨格筋指数が有意に高いことが分かりました。また、日本人高齢者を対象にした別の調査研究においても、1日3食すべてで0.4g/kg以上のタンパク質を摂取していた人は、1日1食や2食しか0.4g/kg以上をクリアしていなかった人よりも、筋肉量や握力が有意に高い結果でした。昼食や夕食は、多くの人でタンパク質を十分量摂取していることから、1日3食、つまり朝食でもタンパク質を十分量摂取することが大事だということです。

タンパク質を計算してみよう

朝に食べる食品について、大体のタンパク質量をまとめてみました。普段の生活と合わせて、比べて見てください。

  • ・食パン1切れ・・・4g
  • ・牛乳1杯・・・5g
  • ・豆乳1杯・・・5g
  • ・卵1個・・・6g
  • ・ソーセージ1本・・・2g
  • ・ベーコン1枚・・・2g
  • ・チーズ1ピース・・・4g
  • ・白米1膳・・・3g
  • ・玄米ご飯1膳・・・4g
  • ・納豆1カップ・・・4g
  • ・豆腐1/6丁・・・3g
  • ・さけ1切れ・・・5g

夕食よりも朝食時のタンパク質が大事な理由

日本人の高齢者女性を対象に、朝または夕食時に10gのミルクタンパク質を含む食品を12週間摂取してもらった結果、朝に摂っていたグループのみで、骨格筋量が増加していました(3)。よって、普段から夕食時にタンパク質を多く摂取している場合、いくら夕食時にタンパク質をプラスしても意味がないことが分かります。一方で朝は普段からタンパク質量が足りておらず、プラスしたミルクタンパク質の効果が見えたということです。

同様の結果は、動物実験でも得られています(4)。実験的に筋肉が肥大しやすい環境において、マウスが起きてすぐにタンパク質を多く摂取したグループは、マウスが寝る前にタンパク質を多く摂取したグループに比べて、有意に筋肉が増大していました。また、体内時計が壊れたマウス(時計遺伝子が欠損したマウス)では、タンパク質のタイミングの影響が見られませんでした。よって、体内時計がこの昼夜差を作り出していることになります。まとめると、同じタンパク質量を摂ったとしても、夕食時よりも朝食時の方が、タンパク質摂取による筋合成が盛んであることが分かります。

昼、間食、夕食でも

これまで朝タンパク質の重要性についてお伝えしてきましたが、もちろんお昼以降のタンパク質摂取も大事です。筋タンパク質の合成は、4-5時間おきにタンパク質をからだに補給する必要があります(5)。よって、朝、昼、夕食でしっかりとタンパク質を摂ることが大事です。また、夕食後の血糖上昇を抑制するためには、お昼や間食にタンパク質を摂取することも効果的です(6)。さらに、また朝食の話に戻りますが、朝のタンパク質は体内時計の調節も担います。これらを総合すると、朝から夜まで、なるべく均等に、必要量のタンパク質を摂ることが大事ということです。

※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

3.食物繊維と時間栄養

参考文献
1. Murakami K, Shinozaki N, Livingstone MBE, Fujiwara A, Asakura K, Masayasu S, et al. Characterisation of breakfast, lunch, dinner and snacks in the Japanese context: an exploratory cross-sectional analysis. Public Health Nutr. 2022;25(3):689-701.
2. Moore DR, Churchward-Venne TA, Witard O, Breen L, Burd NA, Tipton KD, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015;70(1):57-62.
3. Kim H-K, Chijiki H, Fukazawa M, Okubo J, Ozaki M, Nanba T, et al. Supplementation of Protein at Breakfast Rather Than at Dinner and Lunch Is Effective on Skeletal Muscle Mass in Older Adults. Frontiers in Nutrition. 2021;8(1154).
4. Aoyama S, Kim HK, Hirooka R, Tanaka M, Shimoda T, Chijiki H, et al. Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock. Cell Rep. 2021;36(1):109336.
5. Trommelen J, van Loon LJ. Pre-Sleep Protein Ingestion to Improve the Skeletal Muscle Adaptive Response to Exercise Training. Nutrients. 2016;8(12).
6. Kuwahara M, Kim HK, Furutani A, Mineshita Y, Nakaoka T, Shibata S. Effect of lunch with different calorie and nutrient balances on dinner-induced postprandial glucose variability. Nutr Metab (Lond). 2022;19(1):65.

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