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学術コラム 学術コラム

4.体内時計を食・栄養で調節
掲載日2023年4月28日

田原 優
広島大学大学院 医系科学研究科
公衆衛生学 准教授

遅れがちな体内時計

私たちの体内時計は、放っておくと毎日10〜30分程度遅れてしまう性質を持っています。時計の無い部屋で実験的に生活したり、昔だと薄暗い洞窟に住んで調べた実験から明らかになっています。夜型で遅寝・遅起きな高校生や大学生が、夏休みに家でずっとダラダラと過ごし、気づいたら昼夜逆転、さらには1周回って普通の朝型生活に戻っていた、なんてこともあると思います。よって、遅れやすい体内時計を毎日調節することが体内時計を健康に保つ秘訣です。そして、体内時計が健康であればあるほど、日中の眠気も減り、日々の仕事がはかどり、幸福度も高い健康生活が送れるようになるでしょう。それは子どもたちも同じです。日本の高校生は大人と同じくらい乱れた生活リズムで睡眠時間も足りていません(1)。体内時計を健康に保っている子どもは、学校の成績も良い傾向にあります。全ての年代に通じる「健康な体内時計」という生活の基本を、ふと心がけてみてほしいです。

1日の始まりは朝ごはんから

時間栄養学は、そんな体内時計を整えてくれます。特に炭水化物を食べると、私たちの体はその糖分を吸収し、血糖値が上昇します。血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、血糖値を下げる役割を果たしますが、それだけでなく、私たちの体内時計を調節する役割も持っています(2)。この調節が朝に行われると、遅れがちだった体内時計は24時間ぴったりに修正されます。よって、朝は炭水化物を摂る必要があります。

朝はGLP-1、インスリンに着目した機能性食品をプラス

このインスリン⇒体内時計の経路をもっと増強する方法として、オメガ3脂肪酸(DHAやEPA)や水溶性の食物繊維、L-オルニチン、カカオポリフェノール(プロシアニジン)などが挙げられます(3-6)。これらの機能性食品成分は、インクレチン(GLP-1)という腸管ホルモンの分泌を高め、放出されたインクレチンは膵臓に作用してさらにインスリンの分泌を増やします。よって、これらの食材を炭水化物と一緒に摂ることで、さらに体内時計の調節効果が得られるわけです。DHAやEPAは、魚の脂に多く含まれ、特にマグロやサバに多いです。朝ごはんとしてツナサンドやツナマヨおにぎりがいいかもしれません。また、DHA/EPAには中性脂肪を減らす作用や、認知機能の維持に効果的です。特に中性脂肪低下作用は、8週間の魚肉ソーセージを用いた実験により、夕方よりも朝に摂取することで、より効果が見られたと報告があります(7)。

また、肝臓などで作られるインスリン様成長因子(IGF-1)も、肝臓などの体内時計を調節することが知られています。このIGF-1は、タンパク質や、アミノ酸のひとつであるシステインを摂取することで血中濃度が上昇します。よって、朝食には炭水化物だけでなく、タンパク質も摂ることで、体内時計をより効率よく調節できる可能性があります(8)。

朝はトマトに含まれるリコピンの吸収がいい

その他、朝にオススメな機能性栄養素として、トマトに豊富に含まれるリコピンというカロテノイドが挙げられます。リコピンは、抗酸化作用や、善玉コレステロール(HDL)の増加、悪玉コレステロール(LDL)の減少による心血管疾患の予防作用があります。リコピンは、生のトマトよりもトマトジュースなどの加工品の方が、細胞壁が壊され、吸収効率が上がります。また、油と一緒に摂取したり、加熱することでも吸収効率が上がることが知られています。さらに、動物試験、ヒト試験によって、リコピンの吸収は夕方よりも朝に高いことが明らかになっています(9)。よって、朝に温かいミネストローネなどのトマトスープを飲むと、リコピン摂取による効果を最大限に引き出せるでしょう。

就寝前の時間栄養学

遅れがちな私たちの体内時計にとって、夜は注意が必要です。夜の青色光は、体内時計の遅れと共に、眠りを促すメラトニンの分泌を抑制するので、なるべく減らす努力が必要です。また、夜遅い食事や夕食後の夜食も、体内時計を遅らせる原因となります。さらに、夜のストレス負荷、つまり交感神経の過度な活性化や、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌は、体内時計を遅らせてしまいます(10)。夜はなるべく激しい運動をせず、ヨガなどのリラックス効果が高まる運動が良いでしょう。また、L-テアニンやGABAなど、リラックス効果をもたらす成分も、夕方以降は効果的でしょう(11)。これらの成分はリラックス効果と共に、摂取量によっては睡眠の質を上げる効果もあります。すでに睡眠サプリメントとして市場に広く出回っており、時間栄養学としてもぜひリラックスや睡眠の効果的なタイミングで摂ってもらいたい栄養素です。

※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

5.ミネラルと時間栄養

参考文献
1. Shinto T, Tahara Y, Watabe A, Makino N, Tomonaga M, Kimura H, et al. Interaction effects of sex on the sleep loss and social jetlag-related negative mood in Japanese children and adolescents: a cross-sectional study. SLEEP Advances. 2022;3(1).
2. Tahara Y, Otsuka M, Fuse Y, Hirao A, Shibata S. Refeeding after fasting elicits insulin-dependent regulation of Per2 and Rev-erbα with shifts in the liver clock. J Biol Rhythms. 2011;26(3):230-40.
3. Furutani A, Ikeda Y, Itokawa M, Nagahama H, Ohtsu T, Furutani N, et al. Fish Oil Accelerates Diet-Induced Entrainment of the Mouse Peripheral Clock via GPR120. PLoS One. 2015;10(7):e0132472.
4. Tahara Y, Yamazaki M, Sukigara H, Motohashi H, Sasaki H, Miyakawa H, et al. Gut Microbiota-Derived Short Chain Fatty Acids Induce Circadian Clock Entrainment in Mouse Peripheral Tissue. Sci Rep. 2018;8(1):1395.
5. Fukuda T, Haraguchi A, Takahashi M, Nakaoka T, Fukazawa M, Okubo J, et al. A randomized, double-blind and placebo-controlled crossover trial on the effect of l-ornithine ingestion on the human circadian clock. Chronobiol Int. 2018;35(10):1445-55.
6. Hironao KY, Mitsuhashi Y, Huang S, Oike H, Ashida H, Yamashita Y. Cacao polyphenols regulate the circadian clock gene expression and through glucagon-like peptide-1 secretion. J Clin Biochem Nutr. 2020;67(1):53-60.
7. Konishi T, Takahashi Y, Shiina Y, Oike H, Oishi K. Time-of-day effects of consumption of fish oil-enriched sausages on serum lipid parameters and fatty acid composition in normolipidemic adults: A randomized, double-blind, placebo-controlled, and parallel-group pilot study. Nutrition. 2021;90:111247.
8. Ikeda Y, Kamagata M, Hirao M, Yasuda S, Iwami S, Sasaki H, et al. Glucagon and/or IGF-1 Production Regulates Resetting of the Liver Circadian Clock in Response to a Protein or Amino Acid-only Diet. EBioMedicine. 2018;28:210-24.
9. 青木 雄, 吉田 和, 信田 幸, 砂堀 諭, 西田 由, 加藤 秀, et al. リコピン摂取時間帯がラットおよびヒトにおける体内吸収に与える影響. 日本栄養・食糧学会誌. 2017;70(4):147-55.
10. Tahara Y, Shiraishi T, Kikuchi Y, Haraguchi A, Kuriki D, Sasaki H, et al. Entrainment of the mouse circadian clock by sub-acute physical and psychological stress. Sci Rep. 2015;5:11417.
11. Hidese S, Ogawa S, Ota M, Ishida I, Yasukawa Z, Ozeki M, et al. Effects of L-Theanine Administration on Stress-Related Symptoms and Cognitive Functions in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2019;11(10).

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