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学術コラム 学術コラム

3.食物繊維と時間栄養
掲載日2023年4月28日

田原 優
広島大学大学院 医系科学研究科
公衆衛生学 准教授

不足しがちな食物繊維

私たちのからだには、腸内細菌や口腔細菌、皮膚常在菌など、様々な細菌が生息しています。彼らは独自の生態系を作り、私たちのからだと共存し、そして私たちの健康を守ってくれています。特に腸内細菌は、腸内の免疫機能だけでなく、肥満や高血圧の予防、さらにはストレス軽減や睡眠改善といった私たちの感情まで調節していることが分かってきました。

食物繊維は、私たちの体にとって重要な栄養素の1つであり、腸内細菌の栄養源にもなっています。ですが、日本人はこの食物繊維が足りていない人が多いです。食事摂取基準で進めている食物繊維の摂取量は、1日あたり男性で20g以上、女性で18g以上です。しかし、国民健康栄養調査の結果では、男女ともに15gを下回っています。

朝食の食物繊維で体内時計を調節

食物繊維の中でも特に、大麦やイモ類、グアー豆などに含まれる水溶性食物繊維を摂取することで、腸内細菌が増殖し、健康な腸内環境を維持することができます。これをプレバイオティクスと呼びます。腸内細菌は、水溶性食物繊維を分解することで、酪酸や酢酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸(SCFA)を生成します。SCFAには、腸の健康維持や炎症を抑制する効果があります。また、腸管内のpHを下げ、悪玉菌の増殖を抑えることで、免疫力を高める効果もあります。

水溶性食物繊維は、SCFAの生成を介して体内時計の調節を行うことが、動物実験によって明らかになっています(1)。特に朝に食物繊維とご飯(炭水化物)を一緒に摂ることで、インスリン機能が向上し、さらに交感神経が活性化することで、体内時計を朝型に調節します。私たちの体内時計は、24時間より少し長く、毎日遅れがちです。朝日を浴びて、朝ごはんを食べる、その時に食物繊維も一緒に摂ることが大事です。

朝も昼も間食も、食物繊維で血糖管理

肥満、糖尿病の予防には、日々の血糖値を管理することも大事です。特に、食後の血糖値が急激に高まる「血糖値スパイク」は、動脈硬化や糖尿病の原因となるので要注意です。また、食後の血糖値は、体内時計によって、朝よりも夕食後に上がりやすいことが分かっています(2)。よって、夕食時は特に注意する必要があります。そこで夕食時の血糖管理に効果的な方法を挙げてみました。

①朝に食物繊維を摂る・・・高齢者を対象にした研究で、夕食時よりも朝食時に、食物繊維を1週間継続して摂ることで、1日を通して血糖値が低くなることが分かりました(3)。よって、1日1回、どこかで食物繊維を摂るとしたら、夕食よりも朝食時の方が、効果が得られる可能性があります。

②お昼、間食に食物繊維を摂る・・・お昼ごはんや間食のタイミングで食物繊維を摂取すると、「セカンドミール効果」によって、夕食後の血糖上昇を抑えることができます(4)。セカンドミール効果とは、2食目(セカンドミール)に血糖上昇が抑制される現象です。メカニズムは詳細には分かっていませんが、1. 絶食により増加する血中の遊離脂肪酸が1食目の後に減少することでその後のインスリン機能が高まることや、2. 食物繊維摂取によるインクレチン(GLP-1)の分泌がインスリン機能を高める、といったメカニズムが考察されています。これまで間食は肥満には悪いものとして捉えられて来ましたが、間食をうまく使うことで、夕食時の血糖値を健康にコントロールできるということです。また、忙しくて抜いてしまいがちなお昼ごはんも要注意です。お昼は脂質よりもタンパク質多めな食事を摂ることで、夕食時の血糖上昇を予防できたというデータもあります(5)。よって、午後は食物繊維とタンパク質が夕食時の血糖管理には大事でしょう。

③夕食の時刻を遅らせない・・・普段、朝・昼・夕食をしっかりと食べていた人が、朝を抜いて昼、夜、夜食の時間に食事時刻をずらすと、からだはその変化に対応できず、1日を通して血糖値が高くなることが研究で分かっています(6)。また、逆に夕食の時刻だけを早めると(18時の夕食)、夕食後の血糖値が普段(21時の夕食)よりも低くなり、寝ている時も血糖値が低い状態が続きます(7)。さらに、脂質酸化も進み脂肪をより燃焼しやすい状態になります。なので、普段の食事リズムを維持することが大事です。また、朝・昼・夕食をきっちりと食べ、夜食を減らしたり、少し早めに夕食を終わらせることが効果的です。

④夕食時も機能性食品で・・・もちろん食事と共に食物繊維を摂ることで、糖の吸収や血糖の上昇を抑えることができます(9) 。特に夕食時は血糖値が上がりやすいため、その効果が出やすいです(2)。同様の結果はカテキンでも見られ、朝食時よりも夕食時に血糖抑制効果を発揮します(8)。

 以上まとめると、1日の時間帯ごとに異なる意味合いを持って食物繊維を摂り、腸活をすることができると思います。ぜひ実践してみてください。

※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

4.体内時計を食・栄養で調節

参考文献
1. Tahara Y, Yamazaki M, Sukigara H, Motohashi H, Sasaki H, Miyakawa H, et al. Gut Microbiota-Derived Short Chain Fatty Acids Induce Circadian Clock Entrainment in Mouse Peripheral Tissue. Sci Rep. 2018;8(1):1395.
2. Leung GKW, Huggins CE, Ware RS, Bonham MP. Time of day difference in postprandial glucose and insulin responses: Systematic review and meta-analysis of acute postprandial studies. Chronobiol Int. 2020;37(3):311-26.
3. Kim HK, Chijiki H, Nanba T, Ozaki M, Sasaki H, Takahashi M, et al. Ingestion of Helianthus tuberosus at Breakfast Rather Than at Dinner Is More Effective for Suppressing Glucose Levels and Improving the Intestinal Microbiota in Older Adults. Nutrients. 2020;12(10).
4. Kuwahara M, Kim HK, Ozaki M, Nanba T, Chijiki H, Fukazawa M, et al. Consumption of Biscuits with a Beverage of Mulberry or Barley Leaves in the Afternoon Prevents Dinner-Induced High, but Not Low, Increases in Blood Glucose among Young Adults. Nutrients. 2020;12(6).
5. Kuwahara M, Kim HK, Furutani A, Mineshita Y, Nakaoka T, Shibata S. Effect of lunch with different calorie and nutrient balances on dinner-induced postprandial glucose variability. Nutr Metab (Lond). 2022;19(1):65.
6. Hatamoto Y, Tanoue Y, Yoshimura E, Matsumoto M, Hayashi T, Ogata H, et al. Delayed Eating Schedule Raises Mean Glucose Levels in Young Adult Males: a Randomized Controlled Cross-Over Trial. J Nutr. 2023.
7. Nakamura K, Tajiri E, Hatamoto Y, Ando T, Shimoda S, Yoshimura E. Eating Dinner Early Improves 24-h Blood Glucose Levels and Boosts Lipid Metabolism after Breakfast the Next Day: A Randomized Cross-Over Trial. Nutrients. 2021;13(7).
8. Takahashi M, Ozaki M, Miyashita M, Fukazawa M, Nakaoka T, Wakisaka T, et al. Effects of timing of acute catechin-rich green tea ingestion on postprandial glucose metabolism in healthy men. J Nutr Biochem. 2019;73:108221.
9. Tokunaga M, Yasukawa Z, Ozeki M, Saito. Effect of Partially Hydrolyzed Guar Gum on Postprandial Hyperglycemia-A Randomized Double-blind, Placebo-controlled Crossover-study-. J. Jpn Pharmacol Ther. 2016, 44(1)85-91

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