1.時間栄養学とは?掲載日2023年4月28日
田原 優
広島大学大学院 医系科学研究科
公衆衛生学 准教授
食べる前にふと「時間」を意識してほしい
朝食やランチをとるとき、食堂でオーダーをするとき、スーパーでお弁当を買うとき、夕食後におやつを食べるとき、その時間帯に適した栄養素を摂取することを意識したことはありますか?例えば、「今は@@時だから、この栄養素を摂りたいな」とか、「寝る前は睡眠に良い栄養素を摂るべきかな」とか。このようにふと時刻を意識して生活することは、健康的で幸福な食生活を送るためのヒントとなり得るかもしれません。そこで紹介するのが、時間栄養学という研究です。
時間栄養学では、食べ物を摂取するタイミングによって、その効果や影響が変わる可能性があることが分かっています。例えば、朝食を食べることで代謝や体温が上がり、午前中の仕事や勉強のパフォーマンスも向上します。また、ランチにはエネルギー補給が必要ですが、過剰に摂取すると眠気が襲ってきます。夕食時は1日の中で一番血糖値が上がりやすいタイミングなので、炭水化物の摂取を抑えるといいでしょう。また、夜食の食べすぎは、体内時計を遅らせてしまい、遅寝・遅起きといった夜型生活を引き起こしてしまいます。
時間栄養学、という言葉が少し難しく感じるかもしれませんが、それは実は非常に身近で、私たちの日常生活に密接に関わる研究分野なのです。このコラムを読んで、自分自身の食生活や睡眠の習慣を見直してみることをオススメします。そうすることで、より健康的で幸福な生活を送ることができるかもしれません。
体内時計を意識した健康生活を
時間栄養学の考え方は、体内時計の研究から生まれました。体内時計は、睡眠や体温、行動に加え、ホルモン分泌や代謝、免疫など、私たちの体内で起こる様々な生理現象に日内リズムを作り出す生体システムです。「朝日を浴びて、朝ごはんを食べて、体内時計をリセットしましょう」とよく言われていますが、これは本当なのです。それでは、朝ごはんは何を食べたらいいのでしょうか?また、体内時計は腸管で食べ物や栄養素の吸収も調節しており、朝と夜で吸収効率が異なることがあります。従って、ミネラルなどのサプリメントは、吸収効率が高いタイミングで摂取することが重要です。
体内時計が乱れている人は、食習慣も乱れていることが多いです。これらの乱れは、肥満などの生活習慣病や、精神健康の悪化、日々のパフォーマンス低下に繋がります。さらに、肥満やうつ病は体内時計や睡眠を悪化させる負の連鎖にも繋がります。国民健康栄養調査(令和元年)によると、 朝食を食べない人は、20歳代で23.0%、30歳代で24.6%と非常に高く、さらに年々増加傾向にあります。また、日本人就労者を対象にしたウェブ調査では、「普段の食事時刻が不規則である」と回答した人は、「不安がある」、「いらいらしがちである」、「憂鬱である」といったネガティブな精神感情をより訴える関連が見られました(1)。よって、朝ごはんを食べることも大事ですが、仕事が忙しくてふと気づいたらお昼を食べていなかった、夕食はいつも時間帯がバラバラ、といった不規則な食習慣も要注意なのです。
腸の健康を考えた時も、時間栄養学の出番です。腸内に生息する腸内細菌は、私たちの免疫機能を高めたり、最近の研究では私たちの気分までも一部コントロールしていることが分かっています。その腸内細菌は、24時間で変動し、腸内細菌が分泌する代謝物にも昼と夜で変化が見られます(2)。そのため、腸内細菌に効果的に働きかけるためには、食物繊維などの健康補助食品を、適切なタイミングで摂取することが大切です。
高齢者の健康寿命を考えた時も、時間栄養学の出番です。年を重ねても健康に、元気で過ごしたい。その思いを効率よく実現するためには、日常生活において「時間」を考えることが大事です。認知症予防や、夜中の徘徊を予防するには、お昼に外出して太陽の光を浴びることが効果的です。また、朝は不足しがちなタンパク質をしっかり摂ることで、筋力低下を予防できます。ぜひ、全ての項目を読んで、普段の生活で時間栄養学を実践してみてください。
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。
参考文献
1. Tahara Y, Makino S, Suiko T, Nagamori Y, Iwai T, Aono M, et al. Association between Irregular Meal Timing and the Mental Health of Japanese Workers. Nutrients. 2021;13(8).
2. Thaiss CA, Zeevi D, Levy M, Zilberman-Schapira G, Suez J, Tengeler AC, et al. Transkingdom control of microbiota diurnal oscillations promotes metabolic homeostasis. Cell. 2014;159(3):514-29.